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盛岡地方裁判所 昭和57年(ワ)478号 判決

原告

阿部剛

被告

馬場金次郎

主文

一  被告は原告に対し金三四二万六七〇二円と、内金三一二万六七〇二円に対する昭和五四年一一月一四日から支払ずみまで、内金三〇万円に対する昭和五七年一一月一八日から支払ずみまで、いずれも年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金五八五万九五一〇円と、内金五三五万九五一〇円に対する昭和五四年一一月一四日から、内金五〇万円に対する昭和五七年一一月一八日からいずれも各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は左記事故により傷害を受けた。

(一) 日時・昭和五四年一一月一三日午後五時一〇分頃

(二) 場所・盛岡市厨川赤平、国道四号線上

(三) 加害者及び加害車両・被告運転普通乗用車岩八う七九四三号

(四) 被害者及び被害車両・原告(事故当時四五歳)運転原動機付自転車

(五) 事故の態様

原告は前記国道(T字路)を厨川方面から舘坂方面に原動機付自転車で直進中被告の車が右折して衝突した。

(六) 傷害の程度

原告は右交通事故により、右大腿骨骨折、左脛骨腓骨開放性骨折、左膝関節脱臼、頭部挫傷の傷害を受けて次のとおり合計一六七日入院し、

(1) 高松病院・一日

(2) 県立中央病院・昭和五四年一一月一四日から同五五年三月二九日まで、一三七日

(3) 県立中央病院・昭和五六年七月四日から同年八月一日まで、二九日

県立中央病院に昭和五五年三月三一日から同五六年七月三日までの間四四日及び、昭和五六年八月二日から同年一一月二七日までの間五日計四九日間通院した。また、昭和五五年三月三〇日から同年六月一日及び昭和五六年八月二日から同年八月一六日までの計七九日は自宅療養した。右足関節屈折が不自由となり、右大腿部に三〇センチメートル、下腿部に二三センチメートルの手術痕があり、自賠保険法一二級の後遺症が残つた。

2  被告の過失

被告には右折時における対向直進車を確認すべき義務を怠り、しかも原告の直近で右折した過失があつた。

3  損害

(一) 付添費 金二三万四〇〇〇円

一日金三〇〇〇円として七八日間

(二) 入院中の雑費 金一三万三六〇〇円

一日金八〇〇円として一六七日間

(三) 通院交通費 金四万七〇四〇円

一往復九六〇円として四九日

(四) 休業損失 金一六五万五九一二円

原告は事故当時株式会社杜陵印刷(以下単に訴外会社という。)に勤務し、月給一六万一一一四円、年間ボーナス金五六万円の支給を受けていたが、昭和五四年一一月一四日より昭和五五年五月三一日まで二〇一日間、昭和五六年七月四日より昭和五六年八月一六日まで四四日間は入院及び自宅療養により稼働できず、この間の給料の損失は八か月で金一二八万八九一二円であり賞与の減額分は金三六万七〇〇〇円である。

(五) 後遺症による逸失利益 金四七五万二九五八円

六七歳まで今後二〇か年稼働できるところ、労働能力を一四パーセント喪失し、また前記後遺症により勤務が良くないため昭和五七年四月四七歳で訴外会社を退職した。

(16万1114円×12+56万円)×0.14×13.616=475万2958円

(六) 慰藉料 金二三〇万円

(1) 入通院 金一〇〇万円

(2) 後遺症分 金一三〇万円

(七) 以上合計金九一二万三五一〇円となるところ、これまで受領した金額は左記のとおり合計金三七六万四〇〇〇円であるからこれを前記金額から差引くと金五三五万九五一〇円となる。

(1) 後遺症の自賠保険金・金二〇九万円

(2) 休業損害補償金・金一五九万四〇〇〇円

(3) 被告からの見舞金・金八万円

(八) 弁護士報酬 金五〇万円

よつて原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として金五八五万九五一〇円と、内金五三五万九五一〇円に対する不法行為のあつた日の後である昭和五四年一一月一四日から支払ずみまで、内金五〇万円に対する不法行為のあつた日の後である昭和五七年一一月一八日から支払ずみまで、いずれも民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1の(一)ないし(五)を認め(六)のうち一二級の後遺症の認定を受けたことは認めるがその余は知らない。

2  2のうち、被告に右折時において対向直進車を確認すべき注意義務を怠つた過失があつたことは認めるが、その余は否認する。

3  3のうち(七)を認め、その余を否認する。

三  抗弁

1  本件事故は、加害車両が右折の合図をして暫時待機した後右折発進したところに原告が前方を確認しないで時速五〇キロのままで減速せず漫然直進を続けて加害車両の進路上に進入してきたために発生したものであり、右は原告の重大な過失というべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三  証拠関係は本件記録中の証拠目録のとおりであるから引用する。

理由

第一  事故の発生

一  請求原因のうち、事故発生の日時、場所、加害者及び加害車両、被害者及び被害車両は当事者間に争いがない。

また直進中の原告運転の原動機付自転車(以下単に原告車という。)と右折中の被告運転の普通乗用車(以下単に被告車という。)が衝突した事実も当事者間に争いがない。

二  原・被告の過失及びその割合

1  被告の過失

被告に、右折時において対向直進車を確認すべき注意義務違反があつたことは当事者間に争いがない。

次に被告において本件事故の態様から直進車優先原則の違反があつたことは後に述べるとおり明らかである。

ところで成立について争いのない乙第一号証によれば、原告車が進行していた道路はいわゆる幹線道路であり被告車が右折しようとしたのは、右道路とは明らかに道幅の狭い道路である事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そして右事実は被告の注意義務違反の程度を強める要素となる。

なお、原告は、被告において原告の直近で右折を開始した過失があつたとの主張をするので検討する。

前記乙第一号証、成立について争いのない乙第三、第四号証、被告本人尋問の結果によれば、被告は方向指示器を点滅しながら中央線に寄つて直進車を通過させてから、時速一〇キロメートルで右折を開始した後、右折開始地点から、八・一メートルの地点で原告車と衝突した事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。一方成立について争いのない乙第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は時速三〇キロメートルで直進していた事実が認められ、右認定に反するかのような後記2の(二)で述べる事実もそこで述べる理由により右認定を覆すに充分でなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして以上の認定事実を総合すると、被告車が右折を開始してから衝突地点まで二・九秒かかつたこととなり、そうすると被告車が右折を開始した時には原告車は衝突地点から二四・一五メートル後方を進行していたこととなり、被告が原告の直近で右折を開始したとする原告の主張は失当である。

2  原告の過失

(一) 右のとおり、被告車が右折を開始した時には原告車は衝突地点から二四・一五七メートル後方を進行していた事実が認められる。そして成立について争いのない乙第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は右折を開始した被告車に気づいていなかつた事実が認められ、もし衝突地点から二四・一五七メートル後方を進行中に右折を開始した被告車を認めて減速するなどの措置をとつていたならば本件事故は避けえたものであり、この点で原告の過失は否めないけれども、なお、直進車優先の原則から、むしろ被告の側において二四・一五七メートルと比較的近接していた原告車を認めて、右折を思いとどまるべきものであつたから、右をもつて原告の重大なあるいは著しい過失とまで解するべきではない。従つてこの点での被告の主張は失当である。

(二) ところで被告は、原告が制限速度である時速三〇キロメートルを二〇キロメートル以上超過して時速五〇キロメートル以上で進行していたとの主張をするので検討する。

前記乙第二号証によれば、原告は、原告車と前方の普通乗用車との車間距離は一五ないし二〇メートルであつたとの供述をしている事実が認められるけれども、右事実のみから直ちに原告車が車の流れにあわせて時速五〇キロメートル以上の速度で進行していた事実を推認するには充分ではない。また前記乙第一号証によれば原告車は被告と衝突した後、なおも直進して転倒した事実が認められるけれども、右の事実のみからも直ちに原告車が時速五〇キロメートルで進行していた事実を推認することはできない。そして右の他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

3  以上認定の原・被告の過失を総合すると、一〇パーセントの割合で過失相殺するのが相当である。

第二  損害の発生

一  傷害及び療養

1  原本の存在と成立について争いのない甲第二号証によれば、原告は右大腿骨骨折、右頸骨・腓骨骨折等の傷害を受けた事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

2  原告本人尋問の結果によれば、原告は次のとおりの療養を受けた事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

入院 計一六七日

高松病院・昭和五四年一一月一三日 一日

県立中央病院・昭和五四年一一月一四日から同五五年三月二九日まで 一三七日

県立中央病院・昭和五六年七月四日から同年八月一日まで二九日

通院

県立中央病院・昭和五五年三月三一日から同五六年七月三日までの間 四四日

県立中央病院・昭和五六年八月二日から同年一一月二七日までの日 五日

3  原告が後遺症一二級の認定を受けた事実は当事者間に争いがない。

二  損害の認定

1  付添費

原告本人尋問の結果によれば、原告は何日間かは明確ではないが手術の前後に付添を付けた事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。ところで原告は付添を付けた日を七八日間と主張するけれども、右事実から、全入院日の一六七日の三分の一の五五日とするのが相当である。

また付添費は一日金三〇〇〇円とする原告の主張は相当である。

よつて付添費は次のとおり金一六万五〇〇〇円となる。

3000円×55=16万5000円

2  入院中の雑費

入院中の雑費は一日金八〇〇円とする原告の主張は相当である。

よつて入院中の雑費は次の式のとおり金一三万三六〇〇円となる。

800円×167=13万3600円

3  通院交通費

原告本人尋問の結果によれば、四九日間の通院のうち最初の方はほとんど一往復金九六〇円のタクシーを使用していた事実が認められる。

そして本件の右大腿骨骨折等の前認定のような傷害であればタクシーを使用することも相当であり、右事実によれば通院四九日のうち三〇日はタクシーを使用したものとするのが妥当である。

よつて通院交通費は次の式のとおり金二万八八〇〇円となる。

960円×30=2万8800円

4  休業損失

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四ないし第六号証及び右尋問の結果によれば、原告は事故当時、訴外会社に勤務し、月金一六万一一一四円の給料を得ていた事実が認められ、また右尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証及び右尋問の結果によれば、原告は本件傷害の療養のため昭和五四年一一月一三日から同五五年五月三一日までの間二〇〇日、同五六年七月四日から同年八月一六日までの間四四日間、計二四四日(八か月)稼働できなかつた事実、また前記甲第六号証及び右尋問の結果によれば賞与が金三六万七〇〇〇円減額された事実が認められ、これらの認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると休業損失は次の式のとおり金一六五万五九一二円となる。

16万1114円×8+36万7000円=165万5912円

5  後遺症による過失利益

原告本人尋問の結果によれば、原告は本件傷害により足関節折り曲げが不自由で重い物を持つたり高い所にのぼつたり走つたりすると運動障害があるなどの後遺症を受け写真植字機の操作に支障が生じ、昭和五七年四月、訴外会社を退職した事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

ところで原告が事故当時訴外会社から一か月金一六万一一一四円の給料を得ていたことは前認定のとおりであり、さらに前記甲第六号証によれば一年間の賞与として平均して金五六万円を下らない額の支給を得ていた事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

また後遺症につき一二級の認定を受けたことは前述のとおり争いがない。

ところで原告は六七歳まで後遺症による逸失利益が継続するものと主張しているが、前認定のような後遺症が長期間継続するものと断定することも相当ではなく、逸失期間を昭和六七年四月までと認めることが相当である。

そうすると後遺症による逸失利益は次の式のとおり金二七七万三〇二四円となる。

(16万1114円×12+56万円)×0.14→労働能力喪失率×7.944→10年間のホフマン係数=277万3024円

6  慰籍料

(一) 入通院 金一六〇万円が相当である。

(二) 後遺症 金一三〇万円が相当である。

7  以上を合計すると金七六五万六三三六円となる。

右を前認定の原告の一割の過失により相殺すると金六八九万七〇二円となる。

ところで原告がすでに金三七六万四〇〇〇円を受領したことは争いがないからこれを減ずると金三一二万六七〇二円となり弁護士報酬は金三〇万円が相当である。

第三  以上の次第で原告の本件請求は不法行為による損害賠償金のうち、金三四二万六七〇二円と内金三一二万六七〇二円に対する不法行為のあつた日の後である昭和五四年一一月一四日から支払ずみまで、内金三〇万円に対する右同様の日である昭和五七年一一月一八日から支払ずみまでいずれも民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上久一)

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